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社会福祉法人が保育所を運営している場合、「保育所で生じた余剰資金を他施設へ回してよいのか」という相談を受けることがあります。特に、近年は物価高騰や人件費上昇への対応から、法人全体で資金を効率的に活用したいというニーズが高まっています。
しかし、保育所の運営費は公費を原資としているため、一般企業のように自由な資金移動は認められていません。この際に重要となるのが、いわゆる「委託費に係る資金運用通知」に基づく資金の弾力運用です。
実務では、「黒字だから自由に使える」と誤解されているケースも少なくありません。今回は、通知の内容を中心に、保育所における資金弾力運用のポイント(概要)を整理します。※弾力運用が認められるための要件等については、別の回にて記載予定です。
委託費に係る資金運用は、主に次の3つの通知に基づき運用されています。
・子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について
(平成27年9月3日 府子本第254号・雇児発第6号)
・「子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」の取扱いについて
(平成27年9月3日 府子本第255号・雇児保発0903第1号)
・「子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」の運用等について
(平成27年9月3日 府子本第256号・雇児保発0903第2号)
を指します。
これらの通知では、保育所運営費の管理方法や、余剰資金の取扱いが定められています。
保育所運営費は本来、保育所運営のために使用するものですが、一定条件を満たす場合には、法人内での弾力的な資金運用が認められています。
各通知では、一定の要件を満たす場合に、以下のような運用が可能とされています。
・同一法人内の社会福祉事業等への資金貸付
・積立資産への積立
・他拠点区分への繰入
・設備整備や将来修繕への活用
ただし、重要なのは「余剰資金があること」だけではありません。
通知では、最低基準を超える職員配置や適切な処遇確保を前提としており、保育の質を犠牲にして資金を捻出することは認めていません。
現場で特に論点となるのが積立資産です。
例えば、将来の園舎修繕や建替えに備えて積立を行うケースは非常に多くあります。しかし、単に普通預金に資金を残しているだけでは、積立目的が不明確になることがあります。
そのため、実務上は、
・施設整備積立資産
・人件費積立資産
・修繕積立資産
などとして区分管理し、理事会議事録で積立目的を明確にしておくことが重要です。
行政監査では、「なぜ積み立てているのか」「金額は妥当か」まで確認されるケースがあります。
近年の指摘事例として多いのは次のようなケースです。
・貸付金が長期間回収されていない
・繰入根拠が理事会議事録に残っていない
・人件費抑制により余剰資金が発生している
・積立目的が不明確
・拠点区分間貸付の返済計画がない
特に、法人本部への恒常的な資金移動は注意が必要です。
実態として本部運営費の補填になっている場合、保育所運営費の目的外使用と判断される可能性があります。
通知による資金弾力運用は、社会福祉法人経営において重要な制度です。一方で、公費を原資とする以上、通常の法人以上に厳格な説明責任が求められます。
特に、
・積立資産の区分管理
・理事会承認
・貸付金管理
・人件費水準の妥当性
は監査でも重点的に確認されます。
単に会計処理を行うだけではなく、「保育の質を維持しながら適切に資金管理しているか」という視点で内部管理を整備することが重要です。資金弾力運用は、適切に活用すれば法人経営の安定化につながる一方、運用を誤ると行政指導リスクにも直結するため、慎重な検討が必要となります。